研究紹介

RESEARCH

電気を賢く「つくる+おくる+つかう+ためる=あやつる」

電気で「安心・快適・持続可能」な暮らしを実現する次世代スマートシティを支える
「エネルギーマネジメントシステム」をデザイン“

世界的に「カーボンニュートラルの実現」が目標として掲げられる中、近年の電力系統では、
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー(再エネ)の拡大により、急速に電源構成が変化しています。
しかしながら、このような再エネは、天候状況により発電出力が急峻に変動することから電力品質の悪化」や
「消費者によるデマンドレスポンス(DR)」などの解決すべき緊急な課題に直面しています。

林研究室では、これらの課題を解決し、未来社会の「安心・快適・持続可能」な暮らしを実現するために、
①消費のスマート化、②再エネのマネジメント、③電力ネットワークの高機能化、
④次世代スマートシティのデザインに関する研究に取り組んでいます。

電力ネットワーク(スマートグリッド)
1 消費のスマート化 2 再エネのマネジメント 3 電力ネットワークの高機能化 4 次世代スマートシティのデザイン スマートグリッドのデザイン研究

1消費のスマート化

住宅内のエネルギーマネジメント

住宅内の各電気機器の消費エネルギー量や太陽光の発電量をリアルタイムで把握し、電気自動車や蓄電池、ヒートポンプ式給湯機、エアコン、燃料電池の出力などを自動制御することで、通常時の居住者の快適性・利便性や災害時の安全性を維持しながらエネルギーコストを削減、省エネルギーや脱炭素を実現するようなエネルギマネジメントシステム(EMS)の構築を目指しています。

IHや電気自動車などの導入に伴う大規模な電化を背景に、住宅における消費電力量は年々増加傾向にあります。また、住宅における太陽光発電の増加に伴い、天候や昼夜による発電量の変動が大きくなっています。

このような状況下において、電力ひっ迫や再エネ活用に対応するため、住宅に導入された機器が消費電力量を調整できる機能を備えた「DR Ready」となることによる、電力網の強化への貢献が期待されています。
林研究室では、下図(右図)のようにEMSと蓄電池やエアコンなどの住宅のあらゆる機器を情報通信ネットワークでつなぎ、機器の使用状況を逐次監視・リモート制御することによって、住宅を「DR Ready」として活用するためのシステムの構築を目指しています。

デジタルツイン活用による
エネルギーシステムの設計

林研究室では、蓄電池や電気自動車や電気自動車の充電スタンドなどの実機およびこれらの機器を繋ぐ情報通信ネットワークの構築により、世界有数の実験環境を整備しています。また、研究の過程では、これらの機器や電力網の状況をデジタル環境にて模擬したシミュレーション環境(デジタルツイン)を用いてエネルギーシステムの開発に取り組んでいます。デジタルツインでは、蓄電池の充放電状況や電気自動車の充電スタンドのON/OFF状態および電力網の電圧や電流の状況などを再現し、安全かつ効率的にエネルギーシステムを検証することが可能です。デジタルツインでの検証を経て実機による実証実験を行うことで、着実かつスピード感をもって社会への実装につなげていくことができます。

2再エネのマネジメント

再生可能エネルギーの余剰電力マネジメント

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー(再エネ)は、気象条件や時間帯によって発電量が大きく変動します。そのため、発電量と消費量のバランスを調整し、電力系統全体の電力品質を維持するためには、再エネの出力を制御する仕組みが必要です。特に、太陽光発電などの再生可能エネルギーが大量に導入されている電力系統において、気象条件によっては、再エネの発電量が電気の消費量を上回ってしまう状況が想定されます。

再エネの発電量が多いタイミングで電力系統に余った電力(余剰電力)を蓄電池などに蓄え、夜間や需要が高い時間帯に活用する仕組みは、省エネや脱炭素化の達成において非常に有効とされています。

林研究室では、広範囲に設置されたスマートメータのデータに基づき、対象エリアにて発生する再エネの余剰電力を正確に把握・予測するシステムを開発し、効率的に余剰電力を活用しながら再エネの出力を制御するエネルギーシステムの構築を目指しています。

機械学習法を用いた再エネ発電量の予測

火力発電所などの大型発電所は、数秒単位で急激に変動する再生可能エネの発電量を調整するため、数時間前から起動準備を行う必要があります。そのため、再エネの発電量が急変するタイミングや変動幅を正確に予測する方法の開発が非常に重要です。

例えば、太陽光発電量を予測するためには、当日の天候や日照時間および季節などの様々な要因を考慮する必要があります。このため、近年では機械学習と呼ばれる手法が、再エネの出力予測において非常に期待されています。機械学習では、過去の天候や日照時間などの様々なデータと再エネ出力との複雑な関係を学習し、確率・統計的な理論に基づいて、数分から数時間後の発電量を予測することが可能です。さらに、風力発電の出力予測では、当日の気象状況に加えて、周辺の地形など、太陽光発電より多くの要因を考慮する必要があります。

林研究室では、過去の数十年分の風況の再解析データセットを利用した風況と地理的要因に基づく発電傾向の再現技術を開発することで、日本全域における風力発電量を推定しています。

3電力ネットワークの高機能化

デジタルツインによる
潮流シミュレーション環境

太陽光発電や電気自動車、ヒートポンプ式給湯器などの分散型エネルギーリソース(DER)が大量に普及した電力システムを対象にしたエネルギーマネジメント手法の開発や評価は、主にコンピュータシミュレーションにより実施しています。開発手法の社会実装を見据えると、より実フィールドに近いシミュレーション環境を構築することが必要になります。

林研究室では、電圧制御装置や負荷・DER模擬装置、配電線路模擬装置などの実機設備からなる「次世代電力ネットワーク模擬実験設備ANSWER(Active Network Simulator With Energy Resources)」を有しています。ANSWERを用いた電気実験により得られた通信時のノイズや温度による抵抗変化、機器の動作遅れなど実機特性をコンピュータシミュレーションに組み込むことにより、実フィールドに近いシミュレーション環境を構築しています。こうしたデジタルツインの潮流シミュレーション環境を用いた評価により開発手法の社会実装を目指します。

太陽光発電や電気自動車などが
大量導入された配電ネットワークの
電圧や潮流制御に関する研究

太陽光発電や電気自動車などのDERが電力ネットワークに大量に連系すると、電力ネットワーク内の電圧や潮流の管理が困難になることが懸念されています。

林研究室では、電圧制御機器であるLRT(負荷時タップ切替装置)・SVR(自動電圧調整器)、太陽光発電の無効電力制御、電気自動車やヒートポンプ式給湯器、蓄電池などの需要家機器の制御ロジックの開発や設定パラメータの最適化手法の開発に取り組んでいます。需要家のコンセントへ届けられる電圧は、101±6Vという適正範囲に収める必要がありますが、太陽光発電で発電された電力が電力システムに大量に流れ込むと、電圧が上昇し、適正範囲を逸脱してしまう恐れがあります。また、夜間に多数の電気自動車が一斉に充電をすると、電圧降下を助長し、同様に電圧逸脱の発生が懸念されます。電圧適正範囲からの逸脱は、家電機器の故障や太陽光発電の出力抑制などに繋がるため、解決すべき課題です。

研究の一例として、例えば、電気自動車やヒートポンプ式給湯器などの機器を各ユーザーのニーズも考慮しつつ通信により束ねて制御することで、太陽光発電の発電量を吸収することで、電力品質向上にも貢献しつつ、効率的なエネルギー利用の実現を目指す手法の開発に取り組んでいます。

配電系統の電力損失最小化に関する研究

発電された電気は、配電線を通って需要家まで届けられますが、その一部の電気は、配電線にて熱エネルギーとして失われてしまいます。この熱エネルギーを電力損失と呼び、「配電線の抵抗値×流れる電流の2乗」で発生します。一方で、配電線には、開閉器と呼ばれるスイッチが多数設置されており、それらの入/切(ON/OFF)を制御し、電力供給経路、つまり配電線に流れる電流を調整することで、電力損失の低減が可能です。カーボンニュートラルの実現に向け、エネルギーの効率的な利用が求められる中、電力損失をなるべく小さくすることが望ましいですが、実配電系統を対象にすると、開閉器の入切状態の組合せからなる系統構成候補数が膨大となり、最適な系統構成を探索するのに、天文学的な時間がかかってしまいます。

林研究室では、電力損失最小化を目的とした系統構成最適化手法の開発や、実規模の配電系統モデルにその手法を適用することによる配電損失およびCO2排出量低減効果の定量評価に取り組んでいます。また、電力損失最小化技術を実配電系統に適用するためには、遠隔制御が可能な開閉器や電力潮流の計測機器などのインフラ整備が必要になり、現在設備の導入や更新が進められている状況です。そこで、無数に存在する配電系統の中から、配電系統の配電線路長や需要、太陽光発電導入量をはじめとする特徴量に基づいて、電力損失最小化技術の適用効果が特に大きな配電系統を選定する手法の開発にも取り組んでいます。

再エネが大量導入された
電力系統における発電機と
系統設備の制御手法に関する研究

電力安定供給を実現するためには、需給バランスを維持すること、系統内の周波数や電圧を適切な範囲に制御することや系統設備に流れる電力が設備容量を超過しないことなど、様々な基準を満たす必要があり、系統運用者は時々刻々と変化する電力潮流を監視しつつ、発電機や系統設備を制御・運用しています。一方で、太陽光発電や風力発電をはじめとした再生可能エネルギー電源の大量導入は、需給バランス維持のために既存の火力発電機などを停止する必要が生じることや天候に依存した再エネ電源の発電出力による電力系統内の潮流の複雑化を招き、より柔軟な運用手法の開発が求められています。林研究室では、再エネ電源の大量導入に伴い発生する送電線潮流の容量超過(系統混雑)を解消するため、再エネ電源群の発電機会の平等性や出力制御量の低減を考慮した発電機出力制御手法の開発に取り組んでいます。また、周波数安定性の向上を目的に、再エネ電源や蓄電池に周波数安定化機能を新たに具備することによる効果を東日本や西日本を模擬した大規模系統を用いて定量的に評価する研究を行っています。

4次世代スマートシティのデザイン

都市規模のエネルギーマネジメントシステムの設計

林研究室では、気象データを用いた再エネ予測や配電系統データ、地域情報データを用いたデジタルツイン環境等を総合的に活用しながら、蓄電池や分散型電源の制御計画の最適化や電力系統の電圧や電流を制御する方法を開発することで、ビル・工場・住宅などを含めた地域内のエネルギーを管理し、地域単位のエネルギー消費量やエネルギーコスト、二酸化炭素排出量を最適化する仕組みを構築しています。さらに、地域間の電力融通を行う方法論も構築しながら、複数エリアにおける電力需要のピークカットや省エネを実現する展開を考えています。

電動モビリティとのデータ連携による
地域エネルギーの高効率利用

近年のモビリティ分野でのデジタル化を背景に、バスのダイヤや運行状況および人々の移動データなどの様々なモビリティデータが取得可能になっています。林研究室では、これらのモビリティデータを利活用しながら、地域の各地点における再エネの余剰電力を賢く運用するために、地域を行き来する電動自動車・バス・タクシーなどの充電計画や運転計画の最適化の問題に取り組んでいます。このような取り組みにより、家庭にて余った電力を有効的に活用しながら、電力分野だけではなく、交通分野における省エネルギー化や脱炭素化にも貢献することが可能となります。このような電力と交通といった複数の分野でのエネルギー消費をデータ連携させる「セクターカップリング」という考え方により電気を賢くあやつることで、「安心・快適・持続可能」な暮らしを実現する次世代スマートシティの基盤を構築しています。