PROFESSOR
国のエネルギー政策の未来を担う、”二歩先”を目指した研究に取り組む
林 泰弘
早稲田大学 先進理工学研究科
電気・情報生命専攻/先進理工学専攻 教授
カーボンニュートラル社会研究教育センター(WCANS) 所長
スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)機構会長
先進グリッド技術研究所(RIANT) 所長
卓越大学院プログラムPEPコーディネーター
2011年3月に発生した東日本大震災は、日本の電力需給についてあるべき姿を考え直す契機となりました。すでに、家庭で使用する電気を発電所で作るのではなく、太陽光発電などで各家庭において作り、使い、貯めるといった「電気の地産地消」の流れが始まっています。さらに、資源エネルギー庁が発表した2040年の電源構成では、全体の4割から5割を太陽光や水力、風力といった再生可能エネルギーによる電気や省エネにより賄うとされています。
こうした変革には多くの課題がつきものです。例えば、省エネといっても消費者に我慢を強いる節電では長続きしませんし、自らの判断で行う節電には限界があります。また、再生可能エネルギーを多く導入するにあたっては、発電量の予測の難しさ、不安定さといった点が障害となります。そうした課題の解決を目指すのが、電力の供給側と需要側をネットワークで結んで情報のやりとりを可能にする「スマート・グリッド(次世代送電網)」の研究開発です。
我々は、スマート・グリッドの実証試験のために世界でも類をみない規模の実験設備を備えた、スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)を設立しました。この機構では、全ての電気機器をIoT(Internet of Things)化して電気エネルギーをコントロールするシステム「EMS (Energy Management System)」の実用化に向け、60社以上の企業と連携した研究を行っています。
こうした研究開発を進めるにあたって留意すべき点は、「誰にとっての研究なのか」という視点です。
日本の産学連携は、異業種連携が活発でないという弱点を有しており、その成果が社会に還元されない場合があります。そこで、中立的な立場で人と企業、ソフトとハードをつなげる”ハブ”としての役割を果たし、多くの人の幸せかつ快適な生活に資する研究成果を生み出していくことが、研究機関としての大学が果たすべき、使命ではないでしょうか。
そして、この取り組みは教育機関としての大学が果たすべき使命も担っています。多種多様な企業が集まって共同研究する過程においては、それぞれの企業の強みや研究のノウハウを知ることにつながるためです。私一人で学生に対してできることには限りがあるからこそ、”場”で育てることを大切にしています。これから研究者を志そうと考えている皆さんには、その研究が社会にどう貢献することになるのか、という視点を持ち続けてほしいですね。